福岡高等裁判所 昭和31年(う)10号 判決
恐喝の手段として用いられた言動自体は独立して相手方を畏怖せしむるに足らないとしても他の事情と相俟つて相手方をして畏怖又は困惑の念を生ぜしめその結果相手方をしてその意思に反し金品を交付するに至らしめた場合は恐喝罪の成立を認むるを相当とする。
本件に付これをみるに原判決が証拠として採用した被害者小川タマノ及被告人の検察官に対する供述調書によれば被告人の右被害者に対する言葉自体は所論の通り独立して相手方を畏怖せしむるに足るものではないが、被告人は所謂街の不良であつて屡々被害者宅近傍の貸席業から金品を強要する等迷惑をかけていることを被害者において熟知している上、被害者自身被告人から何等の謂れがないのに本件前三回に亘り或は酒代或は焼酎の強要を受けその都度営業の妨害を受けることを慮り要求に応じて来た経験を有するところから、本件の場合被告人は言葉こそ前述の通り激越ではなかつたが被害者の断るのにも耳を藉さず約三十分間帳場に頑張りつゞけ執拗に焼酎の要求を繰返すのでこの上被告人の要求に応じないときは営業の妨害を受けることあるべきを恐れ心ならずも焼酎四合瓶一本を交付したものであること明である。そうだとすれば冐頭説示の理由により恐喝罪の成立すること明瞭と云うべきである。尤も原判決には被告人は、、、、、身体財産に危害を加えかねない気勢を示し、、、、、とあつて措辞一見証拠とそぐわない嫌がないでもないが原判決に掲げてある前示証拠と右判文とを対比熟読するときは判文の意味も結局当審の前段の認定と同一事実を意味するものと解することを得る。従つて本論旨は何れも結局理由がない。
(裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 青木亮忠 裁判官 尾崎力男)